わたし、BL声優になりました
 そう、願っていたのも束の間。
 至福の時は呆気なく終わりを告げた。

「白石くん。って……トキさん!? どうしてここに……」

 事務室の扉が開き、赤坂がゆらぎに声を掛けた直後、ソファに座る九十九院の姿を見つけるなり、彼の態度は一転した。
 
「赤坂、銀次は今どこにいるの?」

「社長なら……」

 赤坂は気まずそうに、自身の背後に視線を向ける。彼の背後から現れたのは、渦中の田中社長だった。

「どうしたの? ……え! 姉さん、なんで……」

「久しいわね。銀次。私がどうして、わざわざここまで足を運んだのか。その理由が分かるかしら?」

「えっと……」

 九十九院の威圧的な態度に、田中社長はすっかり恐縮し、赤坂を盾に背後に隠れてしまった。

 その場を静観していたゆらぎが、今一番に驚いているのは、あの九十九院トキが、田中社長の姉だという驚愕の事実についてだ。

 にしても、外見は驚くほど似ていない。

 冷静沈着な赤坂でさえ、今は表情を硬直させている。

 色々と気になることはあるが、ここは席を外した方が良さそうだ。

 ゆらぎは気を利かせ、事務室から出て行こうとすると、九十九院に呼び止められる。

「あなたもここに居なさい。気を使う必要は無いわ。それより本題よ。今、黒瀬くんに週刊誌の記者が張り付いているのは知っているわね?」

「ああ、そのことか……。知ってるよ。今、赤坂と二人で会議してたのもその話だ」

「そう。なら話が早いわ。ゴールドセブンに気をつけなさい」

 ……ゴールドセブンって、確か、ウグイス先輩が所属している事務所だ。

 気をつけろとは、些か穏やかな話ではない。
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