わたし、BL声優になりました
「つまり。何か仕掛けてくる。ということだね?」
田中社長は落ち着いた声音で、九十九院の言葉を確認するように問い返す。
「そうね。今はそれしか言えないわ。私も状況を掴めていないのよ」
九十九院は顔に掛かった長めの前髪を、手櫛で直しながら答えた。その表情はとても深刻だった。
自分の知らない所で、何かが蠢いている。
しかも、私達にとっては良くないことらしい。
ゆらぎの脳裏に過ったのは、緑川のことだった。
まさかとは思うが、あの計画はゴールドセブンが仕込んだものなのだろうか。
だとしたら、私は良いように利用されただけなのか。
あれから、緑川とは連絡も途絶えている。
「新人ちゃん、大丈夫? 顔色が良くないわよ」
「いえ……平気、です」
これは何かの間違いであって欲しい。
善くも悪くもあるが、私はもう一人の先輩を──ウグイス先輩を疑いたくはない。
「この事務所……簡単に潰したくはないでしょ」
「当たり前だ。僕はこの事務所を簡単に潰させたりはしない」
いつもはどこか飄々としていて、頼りなく見えている社長が、強い眼差しで答えた。
「じゃあ、私はもう行くわ。午後から収録なの。何か情報を掴んだら、また報告に来るわね」
ハイヒールの踵を強く鳴らしながら、九十九院トキは事務室を後にした。