わたし、BL声優になりました
 初の主演作品の収録も、三日前に無事に終了した。

 二週間という日々が、長くも短くも感じられる毎日で、とても充実していた。

 収録最終日は濵田監督から花束を受け取り、沢山のスタッフに見守られながら、スタジオを後にしたのを、今でも鮮明に思い出せる。

 だが、思い出に長く浸っていられるほどの余裕は無い。

 次のオーディションに備えて、事務所のスタジオで発声練習をしていると、室内に入ってきた赤坂が声を掛けた。

「白石くん、ちょっといいかな。来週の水曜日に、セメルくんのラジオの収録があるんだけど、またゲスト出演してもらえるかな?」

「はい、大丈夫ですよ」

 スケジュールは全て、赤坂に一任しているため、断る理由も無かったゆらぎは即答する。

「それは良かった。実はね、収録した作品の販売促進のために、緑川さんも一緒にラジオに出演することになったんだ」

 赤坂の口から緑川の名前を聞いた瞬間、ゆらぎは複雑な感情を抱いた。

 仕事だと理解はしているが、真偽がはっきりとしていない以上、ゆらぎは彼を警戒せざる負えないのだ。

 しかも、緑川と会うのはあの日以来で、どう接すればいいのかも正直分からない。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。セメルくんにも事情は全て伝えてありますし、何かあれば私が制止します。だから、白石くんは安心して収録に挑んでください」

「はい……」

 心配ばかりしていても、何も始まらない。

 だから、今は赤坂の言葉を信じて、ラジオ収録に挑むしか、ゆらぎには出来なかった。


 ──翌週の水曜日。午後六時過ぎ。

「最近、元気ないな」

「そうですか? いつも通りだと思いますよ」

 ラジオ収録のためスタジオに入り、スタンバイしていると、黒瀬が台本を片手にゆらぎに問い掛ける。

 緑川は別件の収録が押しているようで、三十分ほど遅れてからの合流になる。

 収録開始までの僅かな間、少しでもゆらぎの緊張をほぐすように、黒瀬は世間話を続けていた。

「ごめん。遅れた」

「押してたなら仕方ない」

 外気の香りを纏った緑川がスタジオに到着し、ゆらぎの隣に着席する。

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