わたし、BL声優になりました

「──で、あれです。今回、お二人をゲストに呼んだのは新作の宣伝です」

「あ。もう、言っちゃうんだ?」

「勿体振っててもしょうがないからね」

 番組も中盤に差し掛かり、黒瀬が台本通りに収録を進行していく。

 ラジオにはあまり出演しないと言っていた緑川も、黒瀬とは息ぴったりの会話を繰り広げていた。

 ゆらぎは少しだけ疎外感を覚え、同時に焦燥感に駆られる。
 
「そして、忘れちゃいけないのが、白石くんの立ち位置だよね」

「あー確かに。俺的には新鮮だったけど」

「ドS王子の黒瀬が『受け』になるっていうね。立場逆転物語」

 俯いていた視線を上げると、黒瀬が目配せをしていた。自分の思考にとらわれ、会話に参加することを忘れていたのだ。

「そうですね。オレ自身も貴重な体験になったというか……。色々と勉強になりました」

「ということで。気になる人は是非、来月末に発売されるドラマCDを買ってね」

 最後に緑川が作品の宣伝をして、ラジオの収録は終わりを迎えた。

「お疲れさまでしたー」

 三人は録音ブースにいる監督とスタッフに、挨拶をしてスタジオを出て行く。

 ゆらぎが黒瀬の後を追うように廊下を歩いていると、少し距離を開けて後方を歩いていた緑川が小声で呼び止める。

「ちょっと」

「……何ですか」

 つい返事がぶっきらぼうになってしまう。
 
「あれからどうなった? 黒瀬、気付いた?」

「いえ……全く気付いてないですね」

 ゆらぎは目蓋を伏せて答える。

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