わたし、BL声優になりました
「うーん。どうだろ? 事務所の指示に従ってるだけだから……。ゆらぎはどうなの?」

「ちょっと、ね。色々あって……最悪、事務所辞めようかと思ってる」

「え? なんで? もしかして、待遇悪いとか?」

 別段、事務所の待遇が悪いわけではない。
 個人的には寧ろ、厚待遇だと思っている。

「そんなんじゃないけど……」

「お互いに訳アリかー」

 冬馬は頬杖をついて、ふて腐れた表情をする。

「あのさ、ゴールドセブンって悪い噂とか聞いたことある?」

「セブンの悪い噂? 事務所自体大きいからねー。あるっちゃあるんじゃない?」

「やっぱり……」

 思い当たる節は色々と有るが、やはり一番大きいのは、約一ヶ月前に、ゆらぎが突如として抜擢された作品のことだろうか。

 あの作品は本来、ゴールドセブンの所属声優が、出演はずだったという噂も最近になって、チラホラと耳にした。

 それを弱小事務所のシルバーフェザーに横取りされたなら、相手側が敵視するのも頷ける。

「まあ、あれだよ。何かあったら、今の事務所を辞めて、少しの間フリーでさ迷った後に、移籍したらいいんじゃないかな」

「すでにペケが付いてるから、もうどうにもならないよ。きっと」

 あんな大手事務所に目を付けられたら、お仕舞いだということは、自分が一番よく分かっている。

 しかも、私は新人だ。潰すのなんて一瞬。
 声優生命は簡単に終わってしまうだろう。


 結局、冬馬に話を聞いてもらっても、根本的な解決にはならなかった。

 なら、真実は本人から聞くしかない。

 そう。緑川に。

 事実を話してくれるかは分からない。
 けれど、いつまでも燻り続けるくらいなら、当たって砕けた方が、心の平穏を保てる気がする。

 寮の廊下を歩いていると、収録終わりの黒瀬と出会う。

「あ。お疲れさまです」

「ああ、お疲れ。赤坂が探してたぞ」

「え? 分かりました」

 赤坂からの久しぶりの呼び出しに、少し緊張する。

 もしかして、ゴールドセブンについて、何か新たな情報が得られたのだろうか。

 ゆらぎは早歩きで事務室に向かった。
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