わたし、BL声優になりました
「コーヒーでいい?」
「はい」
彼女のオーダーを聞いた緑川は、キッチンへ向かう。
数分後、ゆらぎの目の前には、ブラックコーヒーの入ったカップが置かれた。
「ウグイス先輩、今日は飲まないんですか」
緑川の目の前に置かれているのは、ペットボトルのミネラルウォーターのみだった。
「生憎、そんな気分じゃない」
疲労感を滲ませた緑川の表情に、ゆらぎは出鼻を挫かれる。
「で、話って何?」
緑川に話を促されるも、どう切り出せばいいのか分からないでいた。
「……ウグイス先輩は私達の敵ですか」
「どういう意味?」
ゆらぎの言葉の意味が理解出来ずに、緑川は眉根を寄せた。
何の脈略も無しに、『敵ですか』と問われて、『はい』と肯定する人間が何処にいるのか。
言ってから後悔した。
もっと他に、別の言い方があったはずだ。
これでは、彼のことを疑っていると、自ら公言したようなものだ。
「何の話か分からないけど、ボクは君の敵じゃないよ」
「じゃあ……教えてください。黒瀬先輩を週刊誌に売ろうとしてるのは誰なんですか」
「は? 週刊誌? どういうこと。黒瀬、マークされてるの?」
緑川は目を見開き、驚いていた。
その表情は演技には見えず、明らかに素の表情だったと思う。
ということは、ウグイス先輩は『白』なのか。
「……おそらく」
ゆらぎの返答を聞き、緑川は何かを考えるように突然黙り込んでしまった。
静寂に流れるのは、お互いの微かな呼吸音。
数分置いて、緑川は口を開いた。
「セブンの社長はそんな姑息なことはしないよ。実力で勝負しない奴が一番嫌いなんだ」
「そう、なんですか?」