わたし、BL声優になりました
 ゆらぎが着替えた後、黒瀬達は緑川の自宅マンションを訪れていた。

「全部……聞かせてくれるんですよね? ウグイス先輩」

「あー……。まぁ、うん」

 ガラステーブルを挟んで、ソファに座り緑川と対面する。ゆらぎの隣には黒瀬が座り、湯気の立つコーヒーカップを片手に静観していた。

「もともと今回のことは黒瀬から持ち掛けられた案だったんだ」

 黒瀬を一瞥し、緑川はゆっくりと口を開いた。

「案? どういうことですか」

 勿体ぶらないで簡潔に言って欲しい。
 そんな感情が苛立ちとなって、ゆらぎの表情を歪ませる。

「最初から気づいてた」
 
 少しの沈黙を破るように、その問いに答えたのは黒瀬だった。

「え──」

「だから、お前が女だってことも。何か言えない事情があるんだってこともだ。そのことを知っていて、試した。……お前を」

「試した……?」

「緑川に性別が気づかれたとき、どうして誰にも相談しなかった? 俺には出来なくても、赤坂になら相談出来ただろ? どうして、独りで抱えて黙ってたんだ」

「そ、れは……」

「ごめん、黒瀬。それは僕が脅したからだよ」

「今はお前の弁解を聞いてるんじゃない。白石の意思を聞いてるんだ」

 ──口を挟むな。

 黒瀬の鋭い眼孔が緑川の続く言葉を制止させた。

 助け船を失ったゆらぎは、表情を隠すようにうつ向き、自身の組み合わせた指先を見つめる。
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