わたし、BL声優になりました
 『どうして』と聞かれても、黒瀬を納得させる答えは何も出てはこない。

 ──黒瀬先輩にだけは、絶対に知られたくなかったから。

 ──弱みを握られると思ったから。

 いや、どれも違う。

 本当は。……本当は?

「そんなに信用がないのか? 俺は」

 沈黙が答えだと悟ったのか、黒瀬は諦念を滲ませた言葉をはいた。

「違うっ!!」

 黒瀬の言葉にゆらぎは反射的に声を荒げ、視線を上げる。

 そんな訳ない。普段の黒瀬は敢えて傍若無人に振る舞っているだけにすぎない。努力や弱さを他人に見せないだけで、本当は誰よりも後輩思いで真面目で、そして。
 
 優しいことを知っている。

 信用だってしている。だけど──。

「言えなかったのは……。私なりの意地です。女だからって、ひと括りにされたくなかった。黒瀬先輩と同じ土俵に立ちたいとか、そんな大それたことは言いません。けど、この仕事に真剣に向きあっている時に、私の個人的な事情で面倒事を増やしたくなかったんです」

 何を言っているんだろうか、私は。違う、こんなことが言いたいんじゃない。
 
 この、霧が立ち込めるような感情を、上手く言葉に表せない。

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