わたし、BL声優になりました
「お前にだけは先輩とか言われたくない。なんだよ。それじゃ、何も解決してないだろうが」

「一つ目は個人で動けるとしても、二つ目は事務所の力が必要ですね。勝手に双子の妹がいると触れまわるのは……」

 黒瀬の抗議を無視し、ゆらぎは話を続ける。
 だが、いくらなんでも先輩二人に迷惑を掛けるのはあまりにも気が退ける。

 例えこの作戦のどちらかが上手くいったとして、二つ目の案では黒瀬の人気が下がるのは確実だろう。まして、相手が同じ事務所の後輩の『妹』……ということになれば、どちらにしろ、ゆらぎ自身にも火の粉が降りかかるに違いない。

 それならば、少しでも安全な一つ目の案をとりたい。

 ゆらぎはすでに決心していた。

「事務所に協力を仰ぐなら、僕は協力出来ないよ。事務所が違うからね。……と、言いつつ影でアシストはするけどね、バレない範囲内で」

「良いんですか? ウグイス先輩にとっては何の利益もありませんよ」

「そんなこと分かってるよ。分かってて言ってるんだよ。さっきも言ったけど、事の発端の責任は僕にもあるから」

 いや、全ての元凶……。事の発端は自分自身だ。ウグイス先輩も、黒瀬先輩も悪くない。誰も悪くない。

 悪かったのは、運が無かったからだ。

 そう言い聞かせ、ゆらぎは緊張で渇いた口をゆっくりと開いた。
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