わたし、BL声優になりました
ゆらぎが決意表明をした後、緑川は黒瀬と二人きりで話がしたいと言い、彼女を追い払うように呼び寄せたタクシーに強引に押し込んでしまう。

「寮に戻れば赤坂がいるだろうし、とりあえず安心しておけ。じゃあな」

 黒瀬の言葉を最後に、タクシーの後部座席のドアが閉まる。

 ゆらぎが何か言いたげな表情をしているのに気がつきながらも、黒瀬は見て見ぬふりをして、夜の闇に徐々に吸い込まれ小さくなっていくタクシーの後ろ姿を静かに見送った。

 緑川の自室に戻ると、彼は白ワインを片手に、ワイングラスを二つ掲げて見せた。

「少し、話をしようか」

 そう話を切り出したのは緑川で、ソファに腰を沈めた黒瀬に白ワインの入ったグラスをそっと差し出す。

「お前が聞きたいことは分かってる。いつ、白石が女だってことに気づいたのか。……だよな?」

「簡潔に言えばそうだし、それ以外にも聞きたいこともあるよ。色々と」

 白ワインを口にした後、「つまみが欲しいな」と呟き、緑川は立ち上がりキッチンへ向かう。

「初めて会った時の白石の印象は、幼い顔をした今時の可愛い系男子かと思った。それこそ、お前と系統が似てるかとも思ったんだが」

「失礼だな。僕はキャラを使い分けてるだけであって、別に可愛い系男子じゃない。ただ、ファンの理想を具現化したらこうなっただけ」

「あっそ。お前の経緯は正直どうでもいいわ」

「黒瀬が話を振ったんだろ」

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