わたし、BL声優になりました

「どうしたら……」

 ゆらぎは携帯画面を見つめたまま、焦燥していた。

 こんなことってあるの?

 自問自答してみても、答えは返ってこない。

 さゆに連絡を取ろうとした矢先のことだった。彼女と連絡がつかないのだ。

 何度も電話を掛けたり、メールを送ったりもした。だが、そのどれもが繋がらない。メールに至っては未読のままだ。既読にすらならない。

 これが意図的なのか、判断がつかない。

 意気込んでいたゆらぎは、突然に出鼻を挫かれ、すっかり意気消沈としていた。

 もう駄目かもしれない。
 いつ、あの写真が出てもおかしくない。

 そしたら、私も黒瀬先輩も、きっと終わりだ。

 その前に出来るだけ手を打ちたかった。

 鬱々とした思考が廻る。

 そんな時だった。寮のドアをノックし、控えめな声で訪ねて来たのは、マネージャーの赤坂だ。
 
「白石くん、ちょっといいですか。事務所に来ていただきたいのですが」

「い、今行きます」

 ぼんやりとしていた意識を振り払い、慌ててスニーカーを履いて、ゆらぎは事務室へ向かった。


 事務室に入った途端、足が竦んだ。
 脳裏に良くないことが浮かんだ。
 何も言葉が出ては来なかった。

 そして、悟った。


 事務室にいたのはマネージャーの赤坂と黒瀬。田中銀次社長の三人だけだ。

 だが、空気が違った。いつものような和気藹々とした穏やかな空気ではなかった。重苦しい緊張感が張りつめていた。

< 90 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop