わたし、BL声優になりました
ゆらぎ達は事務室を出て廊下を歩いていた。三歩ほど距離をおいて黒瀬の背中を見つめながら、ふと疑問に思ったことを口にした。

「黒瀬先輩」

「……なんだ」

「先輩って、さゆのことが好きだったんですね」

「はあ!? なんで、そうなるんだよ。俺がいつ、冬馬が好きだって言った? お前はさっきまで何を聞いてたんだよ」

 ゆらぎの唐突な質問に、驚いた黒瀬は歩みを止めて勢いよく振り向いた。お陰で、危うく正面衝突するところだった。

「え? 違うんですか。だって、さっき好きな女が──」

「だああああー!! 言うな!! それ以上は言うな!!」

「はぁ、そうですか。なら、聞くのやめます」

 この慌てぶり。やはりそうなのか。

 黒瀬先輩が誰を好きになろうと、別に私には何の関係もない。なら、このもやもやとした感情は一体なんなのか。

 顔を盗み見ると、耳の縁が紅く染まっていた。言葉では否定していても身体は正直、ということなのか。

 と言うより、黒瀬先輩はいつの間にさゆと知り合ったのだろうか。

 幾つもの疑問符が頭上に浮かび上がるも、どうやらこれ以上は聞けそうにもない。

「あああ、あれだ……。白石、今度のオフは何時だ?」

「オフの日ですか? 今日と明日は休みですけど」

 わざとらしく話題を切り替えた黒瀬を訝しげに思いながらも正直に答える。

「今日と明日か……」

「何ですか。また悪巧みでもしてるんですか。私は乗りませんよ」

「それ」

「え?」

「俺の前で『私』って言うのはいいけど、スタジオでは気をつけろよ」

「あ、忘れてました。そうですね。『オレ』ですね」

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