わたし、BL声優になりました

「んー……なるほど、いい人そう。優しそう。イケメン……。って、皆。褒めてくれるのはすごい嬉しいんだけど、実は裏表ありそうとか、性格最悪そうとかないの? いいよ、本音言っても」

 黒瀬はリスナーから届いたコメントを読み進めながら、時間差を感じさせない速度で、一つ一つ丁寧に返事をしていく。

「そっか。……俺、愛されてるなぁ」

 感慨深く呟いた後、話題を切り替えるように声のトーンを改めた。

「ここからは真面目な話。

 俺が皆に伝えたいのは、例えこの先何があったとしても、惑わされないでほしい。

 他人の言葉を信じるくらいなら、俺の言葉を、態度を、行動を見てほしい。

 それでも、もう無理だって、信じられないって思って、離れていくなら止めはしない。

 それが皆の選んだ答えだから」

 黒瀬の真摯な言葉に、ゆらぎは下唇を噛みしめた。

 これから起こるであろう騒ぎの代償を最小限にするために、彼はファンに対し、誠実に向き合いつつも予防線を張ったのだろう。

 それは、黒瀬の自己犠牲でもあり、覚悟の表れでもある。

 ゆらぎは黒瀬の言葉を最後まで聞くことが出来ずに、ラジオアプリを閉じた。

 私は先輩に何をさせようとしているのだろう。彼の大切な仕事を奪ってまで、この業界に居たいとは思わない。犠牲を払うのは私一人でいい。

 決意を固めたゆらぎは、再度、彼女──冬馬さゆ──に連絡を取るために行動を移した。
 


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