大鴉（ガシャ）の哭く森
宵闇
黒絹の夜空に浮かぶ、金色の満月。

凍てついた夜風が、静まり返る森をざわめかせている。

灯りの消えた部屋の中に、暖炉に焚かれた火が、ゆらゆらと揺らめく淡い影を描き出していた。

窓辺に見える、高峰の山々。

その頂きを純白に染める雪が、吹き付ける風に運ばれて、この森の最中にまで舞い落ちてくる。

もうすぐそこに、風雪と氷に閉ざされる冬が迫っている･･･


長い指先が、まるで紅を散らしたように染まった滑らかな肌を辿っていく。

細めた視線で、その銀水晶の瞳を見つめる、鮮やかで美しい魔性の瞳。

どうして、この異形の眼差しに囚われてみたいと思ったのか、マイレイは、自分でも判らないでいた。

彼女の細くしなやかな指先が触れた、野を駆ける獣の如く引き締まった胸元･･･

その左胸に刻まれている、炎の獅子の紋章････

それは、この青年が、どんな宿命を背負って産まれてきたのか、それを、明白に物語っていたのである。

だが････

聞くのはよそう････

マイレイは、ふと息を詰めて、全身を駆け抜けるその甘美な衝動に、しなやかでなだらかな体を反らせた。

緩やかな丘陵を描く白く綺麗な胸を撫でる、その見事な栗色の髪。

柔軟に引き締まった広い背中を、細い両腕で強く抱きしめながら、彼女は、吐息のような声でその名を呼ぶのだった。

「ジェスター･･･」と････

その名前は、この青年にとっての借りの名だ････

真実の名を聞けば、恐らく彼は、彼女の命すら奪うのだろう。



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