死神の僕は命を描く
人間は、やっぱりくだらない。死神をしていて何度そう思っただろう。

トラーンや、消えてしまったカルナの気持ちなど、何もわからない。

チャイムが鳴り、一時間目の数学が始まった。



放課後、僕は新と莉音と廊下を歩いている。美術部が活動している美術部へ行くためだ。

昼休みも、この二人に校舎を案内してもらった。新はクラスにいた馬鹿な男子たちと違いしっかりしている。それだけはありがたい。前に担当した人間は、超がつくほど馬鹿だった。騒ぐだけ騒いで授業はサボり、真冬の川に飛び込んで心臓発作で死んだのだから……。

「ここが美術部の活動現場だよ!」

新が美術室の扉を開ける。油絵の匂いが僕の鼻を刺激した。

美術室は、部員が絵を描く音以外何も聞こえない。こうして僕らが入ってきても、振り返ることなく黙々と作業をしている。美術室にいるのは五人。それぞれ違う絵を描いている。

「私も仕上げをしなくちゃ」

そう言いながら、莉音が白い猫を抱くヨーロッパの貴族のようなドレスを着た女性の絵の続きを描き始めた。

「きれい……」

実際は何も感じていないが、とりあえずそう言っておこう。そうすれば大体の人間は喜ぶ。案の定、莉音は振り向いて「ありがとう、でもまだまだだよ」と言った。
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