もののけ姫に愛されて。。
律は、自分の両手を見つめる…

一瞬…、その両手が血で染まっているかのような…そんな錯覚に陥っていた…


…が、すぐにそれが錯覚だった…と、気が付き…何とか、冷静さを取り戻そうとした…


呼吸を整えるよう…、23度深呼吸を繰り返す…

「……っ」
《祖母の天音に、そう言われた時…

自分は、5、6歳だった…それより昔…とは、どういうコトだ…っ?


ソレ以前に、自分は、誰かに何かをしたのか…ッ?!

いくら、考えても…

何も、思い浮かばない…


でも……っ!》


思考を巡らせている内に…、先程、すれ違った着物を身につけた少女のことを思い出した…


「…いゃ…っ」
《あの子は、幽霊だろ…っ?


それに、

あの着物の子と、夢に出てきた女性は、別人じゃないのか…――っ?》



「りっちゃん…っ! ここに居た!」

寺の境内から、碧生が駆け寄って来ていた…

顔色が悪くなった律を心配し、探していたのだろうか…?

「大丈夫ッ? 急に顔色、悪くなるから…
ここ、感じるの? おばあちゃんがいるから?」

と、濡らしたハンドタオルを差し出した…

そのタオルを受け取り、額や首筋に充てがう…少し、ほんの少しだが…呼吸も気持ちもラクになってきていた…

「…ありがとう…っ」

そぅ、何とか笑ってみせた…

「やっぱり、ほかの人は、分からないよ。
西園寺の家は、普通の人とは違うもの…。
だから…っ」

少し…、涙ぐんだ瞳で律を見上げる…

いつもの碧生なら、ここで『りっちゃんのお嫁さんになる!』と、言うはず…が…

口をつぐみ…、律の喪服の上着を掴み、その胸元にそっと自分の額をもたれ掛かせ…その律の身体に抱きつき、背に手を回してきていた…

「…碧生…」

「いいの、ほんの少しだけ…」

だいぶ…呼吸がしやすくなってきていた…

自分が、呼吸をしやすくなった…ということは、碧生が自分の息苦しさを吸い取ってくれているからだ…

「…ごめん。碧生のことは、妹くらいにしか…思えないんだ…」

残酷なことを言っている…のは、分かっていた…


が、碧生が自分のことを本気で好いてくれる前に、ちゃんと切り離して置かないと…彼女の為にならない…

何より、その居心地の良さに甘えてしまう…自分が…

「…分かってる…。
でも、辛そうなの…見てられない…」

「……っ」
《そばにいたら…

きっと、碧生の生命を縮めてしまう…


その前に、ここを離れよう…っ》



その2人の様子を眺めている…先程、律とすれ違った着物を身につけた少女の姿が、少しずつ…現われ始めた…

『…り…つ…、』

その名を呟く…、やっと見つけた…

殺したいほど、憎く…

それ以上に、愛しくて…愛してやまない人…


次第に、笑顔になっていく…




その彼女の瞳に、律の影がいくつも…いくつも…現れる…







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