もののけ姫に愛されて。。
お盆休みが終わり…、けたたましい姉の六花は、大学のあるK市に帰って行った…


律は、クーラーが効いている市内の図書館に朝から居座っていた。

理由は、西園寺の家では、日中、クーラーをつける習慣はないのだ…
霊感体質家族のため、多少の猛暑は過ごしていける…という意味不明な父・光一の教育方針だ。


「律、お前…大学、どうするの?」

と、興味本位で律に付き合っている悠斗の言葉に、数学の課題を解いていた律は、ようやく顔を上げた…

「それより、お前…。ここに何しに来てるの?」

律について、一緒に図書館に来ている…にも関わらず、課題もせず…本を読むワケでもない悠斗に、半ば呆れながら…律は言っていた…

「律を観賞しに!」

「なんだ、そりゃ?
考えてないけど、とりあえず…理系かな?」
《碧生と離れるために…と、安易に県外の大学に行こう…にも…

姉ちゃんのいる大学は、国公立でレベル、高かったんだった…


私学なら、家からでも…だけど、

家から出るのが第1条件だから、国公立以外、狙えない…っ!》


「なんだ、考えてんじゃーん! 真面目だな~」

「そういうお前は、どうなの?」

「俺? 律と同じとこ~! 将来、NBAに入るから!」

…と、夢のような話をし、目を輝かせている悠斗に、律は呆れながら…

「それは、夢の話しだろ? 現実的に、一年後の受験なんてすぐだし、その後だって…
それに、俺と同じ…って…」

…と、口をついて出た言葉に…、律は自分でも呆れ、頭を抱えそうになっていた…

なんて、つまらないことを口にするのか…っ?


そんなこと、言わなくても…悠斗も分かってるはずなのに…

「どした?」

「いゃ、なんでもない…。
ちょっと、本探してくる…っ」

腰を上げた律は、高い天井まで届きそうな本棚が並ぶ専門書のブースまで来ていた…


「……っ」
《まだ…、夢を語っている方がいい…

いまの自分には、なりたいモノなんて、何も無い…


幼い頃、何になりたかった…と、語っていたのか…っ?

それすら、思い出せない程だ…


理系は、割と得意…というレベルだ。

だからと言って、その方に進みたいか?…と、聞かれたら…答えようがない…》


ふ…っと、視線を感じ…

すぐ様、その視線が感じられた方…自分の背後を振り返る…

「……っ!」

一瞬…、本棚の間の通路…に、紅い着物の袂が見えたような気がした…
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