クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!
「遅れて申し訳ありません。座ってよろしいですか?」
相手が何も言ってくれないので自分からそう言って、彼の向かいに座る。
お名前は覚えてる。
長田夏輝さんだ。長田さんと呼んでいいだろうか。
「あの……」
「まず最初に、お待たせして申し訳ありません。そして、私はお見合い相手の緒方優菜ではなく、姉の緒方玲菜と申します」
その場で深く頭を下げる。イヤリングが落ちそう。
「妹がインフルエンザにかかりました。長田さんの病院で見ていただいたらと言ったのですが、妹は恥ずかしがり屋で行けませんでした」
メイクもできない顔で会えるわけない!
それか本音らしいけど。
「直前でお断りするのも申し訳ないので、今日は私が妹の代わりにお詫びに参りました。本当に申し訳ありません。妹は長田さんと会うのを楽しみに……」
「何を注文しましょうか?」
涼やかな声が私の前に広がった。
「えっ?」
「まずはお水をどうぞ」
私が頭を下げてる間にキラキラしたグラスが置かれていた。
「ありがとうございます」
のどが渇いていたからうれしい。少し重たいグラスを持ち冷たい水を流し込む。
あぁ……美味しい。
「美味しくて幸せです」
緊張が少し解けたのか本音が出ると、長田さんは吹き出すように笑った。
「幸せって、たかが水で大げさですよ」
「大げさじゃないです。とっても美味しいお水です、グラスも綺麗」
「バカラですよ」
「えっ!えーっ!」
しまった
つい高い変な声を出してしまった。