ヒマワリ
冷まそうと手を振る男。

その手が当たり、積み重なっていた食器を崩してしまう。

派手な音を立てて床に落ちる食器たち。

香奈、その音に肩をすくめ、

「あ、あの~、おかまいなく~……」

「あ、ううんごめん、なんでもないから」

男は床に落ちたものを足で香奈の視線の外へと押しやり、満面の笑みで頭を掻く。

香奈、微妙な笑顔を返す。

男はまたやかんに向き直る。

今度は雑巾で取っ手をくるんで持ち上げた。

香奈は思った。

 -結構普通の人じゃない。のぞみめ、いい加減なこと言って・・・

座ったままの姿勢で窓をのぞく。

庭に数本、大きく花を咲かせたひまわりが雨に打たれているのが見える。

「さ、できた。少し甘すぎるかな。ココアだけど」

男がお盆に湯気の立つカップをふたつ乗せて持ってきた。

「あ、すいません。いただきます……」

カップを受け取り、ずずず、とココアを飲みながら、香奈はちらかし放題の男の部屋をながめる。

雑然とした部屋の一角に、円形にきれいにかたづけられた場所があり、その中央に宝物のように、例のボーリングの玉が置かれていた。

ボーリングの玉は窓から射し込む光の中にぽつんと浮んで見える。

それを何度もチラ見する香奈。

 -すっげー気になる。
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