ヒマワリ
「あ、あのー……」

「ん、なんだい」

男がにこにこと笑いかけてくる。

「あれ」

香奈はそれを指差す。

「なんなんですか」

「よく聞いてくれた!」

男はいきなり大声て叫ぶと、香奈の肩をがしっと掴む。

「きゃっ!」

「ふっふっふ。なにを隠そうあれはね……」

ギラギラと目を光らせながら、男の顔が香奈に近づく。

 -ああ! やっぱりピンチ!

体をこわばらせ、ギュッと目を瞑る。

男はそんな香奈を真っ直ぐな目で見つめ、

「あれはね、人々を救う玉なんだよ」

といった。

「……は?」

香奈、目を開け、きょとんとした表情で男を見る。

男は構わずじっと目を見つめたまま、

「あの玉は、この世のすべての人々の苦しみを吸い取り、あらゆる人々に幸せをもたらす、夢の、魔法の、奇跡の玉なんだ」

男は香奈の肩を掴んだまま、天を見上げた。

自分の言葉に酔ったらしく、涙をにじませて、ぷるぷると小さく振るえている。

香奈はひきつった笑みを浮かべ、そっと体をひねって肩を掴んだ男の手からさりげなく逃れた。

「……でも、ボーリングの玉でしょ」

「うん、見た目はね」

中身もね、という言葉を香奈はぐっと飲み込んだ。

「ん? なんか言った?」

「ううんなにも」

手を振る香奈。

……やっぱりイカレてた。

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