ヒマワリ
香奈はボーリング場での光景を思い出していた。

二人を遠巻きに見て、ひそひそと囁き合う人たち。

彼は苦笑して、

「知らないけど、想像はつくよ」

「なのになんで?
 どうしてあなたは自分を犠牲にするの?
 そんな世界を救うなんて大仕事、もっと他の誰かに任しとけばいいじゃない」

「他の誰かって、だれ?」

「……わかんないけど」

「……そうだね。
 たしかにもっと、僕なんかよりずっとずっと立派な誰かがいつかみんなを幸せにしてくれるかもしれない。
 僕なんかよりももっと確実で、確かな方法で」

彼は星空を見上げる。

「でもそんなの待ってられないよ。
 今、僕らがこうやって穏やかに星を眺めてるこの時にも、同じ星空の下で泣いてる人がいるんだ」
   
香奈はもう一度空を見上げた。

そこには、たくさんの星が、先ほどと同じくひっそりと瞬いている。

「この空はどこまでも続いてる。
 その下には、たくさんの人が、今この瞬間、泣いたり笑ったり叫んだり苦しんだり憎んだり慈しんだり恨んだり誰かを好きになったりしてるんだよね。
 僕はそれを思うと、いつもすごく不思議な気持ちになるんだ……」

香奈は彼の横顔を見た。

そうして、その時になってようやく、自分の気持ちに気がついた。
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