羊かぶり☆ベイベー
「例えば『え、なんで~、めっちゃ旨いやん! どういうところが嫌なの!』って理由から、今度は嫌いな食べ物をメインに会話を広げられたり。どっちにせよ、話を広げられるでしょ?」
「なるほど……」
オーバーなリアクションの吾妻さんに、思わず気持ちが後退る。
「あとは、その店を知らないって言われれば『ここだよ』って話にも持っていける。これだけでも、3パターンの道をつくることが出来る」
「それなら、4パターン目もあります」
「お! 4パターン目?」
「へぇ、って言われて終わります」
「……それは、彼氏さんのこと?」
「はい」
吾妻さんは、返答に少し困っている。
そりゃ、そう。
私だって、困っているのだから。
せっかく得意気に教えてもらっていたのに、水を差すような真似はしたくなかったけど。
出来ることなら、そのパターンも参考にしたい。
しばらく考えたらしい吾妻さんは、私に尋ねる。
「彼はそのとき、どんな表情してる?」
「そのとき……」
「そう。その『へぇ』って言ったとき」
言われて、考えてみる。
だけど、自分でも不思議なことに、その光景が浮かんでこない。
首を傾げた。
それでも、思い出せない。
もしかしたら、私は「へぇ」と言う短い返事をされたとき、ユウくんから目を逸らしていたのかもしれない。
いくら記憶を呼び覚ましても、声しか浮かんでこない。
だから、これは思い出せないのではなく、知らないだけ。
出ない答にいつまでも悩んでいると、吾妻さんがまたも優しく言う。
「明日はしっかりと彼の表情、見ておいてごらん。どんな顔して、それを言っているかで、意味が全く変わってくるから」
「意味が……?」