羊かぶり☆ベイベー
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本日の業務も終え、重い腰を上げ、やっとのことでやって来た吾妻さんのカウンセリングルーム。
「ごめんなさい……」
座って向かいの席で深く頭を下げる私に、吾妻さんは、戸惑いの表情を浮かべる。
「え、どうしたの」
「以前、出された宿題の答、今回はお答え出来ません」
「……そっか」
「はい」
「良いんじゃない? まだ焦らなくても」
顔を上げると、吾妻さんの笑顔が見えて、驚くほどに落ち着く。
何も知らなくても、対等なところから私を見守ってくれている。
そんな気がした。
「さぁ。気を取り直して、今日も始めていきましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃ、まず、近況を聞かせてもらえますか。みさおさんが話しても差し障りの無いことだけで、結構です」
「近況ですね……えっと、吾妻さんもご存知の通り、2人で食事に行きました」
吾妻さんは相槌を返してくれる。
その先の言葉を待っているようだが、生憎、何も変化は無いので報告のしようが無い。
「それだけです。変わったことは、特に何も」
「そう」
「はい」
「じゃあさ……」
ボールペンを弄る吾妻さんは、穏やかな表情で何か考えている。
少し間を空けた後で、そのままの穏やかな視線で、私を見た。
「みさおさんは彼と居て、どうだった? 楽しんできた?」