羊かぶり☆ベイベー



だって「自分本意=自己中心的考え」なんて、場合によっては、相手に迷惑をかけてしまう。

凝り固まった己の固定観念は、なかなか否定することが難しい。



「じぶんほんい……」

「やっぱり納得してないね」



苦笑いをする吾妻さんは、頭を掻く。



「自分本意っていう言い方は、極端過ぎた。そうじゃなくて、叶わなくても自分の希望をもっと、もっと伝えるくらいは、しても良いんじゃないか、って話」

「伝えたことくらいは──」



言いかけて、心当たりがほぼ無いことに気付かされる。

それこそ、あの勇気を振り絞って、つい先日の夜ご飯に誘ったことくらい、だ。

尚も吾妻さんは、控えめに口角を上げて、優しい表情で居てくれる。



「『自分のことを大事に出来ない人は、他人なんて、もっと大事に出来ない』ってね」

「え」

「昔、人から教わったんだ」



そう言った吾妻さんは、懐かしそうな瞳をしている。

吾妻さんの様に、人の内側にズケズケと入って行ける人でさえ、誰かを伝っているんだ。

彼の暖かさを含んだ、その瞳が醸す雰囲気は親の様な、恩師の様な。

きっと、吾妻さんも彼にとって、そういう存在の人から受け継いだのだろう。

そう思うと、この人とは本当は真面目な人なのだと思える。



「だから、前も言ったかもしれないけど。みさおさんの本当の気持ちを言ってくれるのを、待っている人はたくさん居ると思うよ」

「はい」

「ただ、それを急ぐ必要はないし、みさおさんの心の準備が出来るまで、みんな待ってくれる。ゆっくり、ぼちぼち行こう」

「はい」
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