羊かぶり☆ベイベー
「それに、誰1人として、本心を隠したままの世界なんて、成り立たないと思わない?」
「人は、だいたいが建前だと、思います……」
「……そんなの、俺はあってたまるか、って感じだけどね」
いつもの声とは違う、妙に静かな声。
その声は、明らかに本音を隠したまま、私には見せたくなさそうな複雑な感情がある。
──吾妻さんだって、出したくない本音の1つや2つ有るくせに。
でも、そんなことを言うのは、さすがにどうかと思って黙っていた。
誰しも、みんな何か事情を抱えている。
すると、ハッと我に帰った吾妻さんは、気まずそうに私の表情を確認する。
「ごめん! 余計なこと、言った。今のは忘れて」
「はい。吾妻さんもいろいろ有りますよね」
「いいや? まぁ、俺のことは、いいから」
吾妻さんは笑って、誤魔化す。
カウンセリングのルールであるから、詮索したりはしないけど、正直のところ、腑に落ちない。
そうやって、態度に出されると、気になる。
やり取りが重なって、親しくなってくる程。
吾妻さんとは、友人といった意味で親しくなることは出来ないけど。
それでも、親しくなった人に、気持ちを隠されるのは──。
「確かに気分、良くはないですね」
「……みさおさん?」
思わず、口から漏れ出ていた。