羊かぶり☆ベイベー
「自分のことを話すのは苦手ですけど。吾妻さんに、そうやって閉め出されて、距離を縮められないのは、何だか寂しいものですね」
「ごめん。それは──」
「わかってます。『カウンセラーの決まり』なんですよね」
私がスパッと言い切ると、吾妻さんは目を円くしていた。
「俺さ……みさおさんって、十分、素直だと思うんけど」
そういう彼の頬がほんの少しだけ染まっているのには、気付かないフリをした。
吾妻さんは、ゆっくり丁寧に続ける。
彼自身の表情や、私がそれに気付かないフリをしていることを知っているのか、どうか私からは一切読み取れない。
上手く隠せるのは、職業柄なのか、もしくは元々からそういう人だからなのか。
「俺がさっき言いたかったことだけど。『誰1人として、本心を隠したままの世界』は存在しない」
「そうでしょうか」
「そりゃ、そうさ。例えば、このボールペン1つでも」
1本の黒ボールペンを、私に見せ付ける。
「このペンは、どこにでも売られているサラサラ書けるペン。紙に引っ掛かりにくくなり、ペン先のボールに工夫が施された。とか言っても技術的な話は、俺には分かりっこないけど」
「はぁ……」
「だけど、これは、確かに誰かの『本音』という要望、極端に言えばクレームがあったから、開発された製品じゃない? 『手が疲れにくいものが欲しい』『書くストレスを軽減したい』とかね。物凄く単純なことさ」
黙って聞く私に、しっかりと目線を合わせてくる。
それが、とにかくむず痒い。