羊かぶり☆ベイベー
「──今日もありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ」
ニッコリと笑って、吾妻さんは書類を束ね、机の上でトントンと整える。
私も鞄の中身を整理して、立ち上がると、吾妻さんが何かを思い出した様な顔で、私を見上げた。
「あ! そういえばさ……」
「何ですか?」
無色透明のクリアファイルの中に挟まれた、数枚の書類をパラパラと捲っている。
そして、その中から1枚のA4用紙を取り出した。
「みさおさん、これ貰った?」
「ん? 何ですか? これ」
「社員旅行の案内。今時、珍しいね、ここの会社」
目の前に差し出されたイラスト付きの案内は、恐らく汐里が作成したであろう、商品開発部お手製のもの。
今年の行き先は、長野県。
汐里と食堂で話したことを、ふと思い出す。
どうやら、汐里の提案が通ったらしい。
「いいえ。まだ貰ってません」
「そっか。今日、廊下を歩いていたら、渡されたんだけど」
「吾妻さん、行かれるんですか? 旅行」
「うん。誘ってもらえたからには、行こうと思って。こういう場に参加することも、カウンセラーとして、大事な仕事の1つだし」
「そうなんですか?」
「そうそう。この会社には、どんな人達が居るのかとか、交流して知っていけば、ケアの仕方とかも見えてくるかもしれないからね」