羊かぶり☆ベイベー
「いや、それは……」
せっかくの憩いの時間なら、ユウくんからは逃げたい、かも。
緊張し過ぎて、心から楽しめないのは、もう目に見えている。
頑張るのなら、平日に。
「きっと、彼は営業部の人たちと、纏まって行動すると思います。もしくは、社長たちのお側でお話しするとか」
「そっか……」
「はい」
「じゃあさ。もし、何もすることが無くなって困ったら、俺のところにおいで」
「へ」
「俺も2日間ぼっちは、しんどいかも」
「あ、ああ、はい。気が向いたら」
ヘラッと、平気な顔で言ってくる。
これは、もしかして甘えられているんだろうか。
まったく、どんなつもりで居るんだろう。
そんな言われ方をすると、また勘違いしてしまいそうになる。
これも仕事柄だからと言って、明るく親しまれやすいように、みんなへこういうことを言ってしまうんだろうか。
それは、それで複雑な気分だ。
もし、吾妻さんに彼女さんが居たとしたら。
きっと不安で堪らないだろう。
私が気にすることでもないし、気にすること自体が可笑しい。
だって、私は吾妻さんにとっては、ただのクライアント。
そして、ある夜、何の巡り合わせか知らないが、あの店長の小さなお店で偶然、出会っただけの人。
それ以上は、突っ込んじゃいけないことを分かっているのに。
何より、私には「彼氏」という存在が居るのだから。
だけど、この人の笑った顔は、私の胸の辺りを締め付けてくる感覚がする。
理由なら、何となく分かる。
こんなこと、駄目なのに。
「みさおさん?」
「……は、はい?」
私は、また平気なフリを装う。
羊かぶりな私は忘れた頃に現れて、いつまででも私に付き纏う。