羊かぶり☆ベイベー
そして、知らぬ間に4時間も経ち、バスは定刻通り、1つ目の目的地に着いたというわけだ。
久しぶりの地面に降り立つ。
時期は、初夏。
地上では、日差しが徐々に照り付け始め、暑さの予兆にうんざりしていた頃。
しかし、流石は某ダム渓谷。
普段の生活で感じている気温より、明らかに低い。
気温と空気の心地好さに、私が小さく声を漏らしながら、伸びをすると、先輩はクスクス笑う。
「長旅、疲れたね」
「そうですね。先輩は大丈夫ですか?」
「私はさっきも話した、よさこいで鍛えてるから。やっぱり一緒に、伊勢さんもやる? よさこい」
「んん、考えておきます」
冗談めいた態度で胸を張り言う先輩に、苦笑いで返す。
そんな会話をしていると、順に降車する社員さんの中にユウくんの姿が見えた。
私の目の前を、営業部の女の子と肩を並べて通り過ぎて行く。
ただ、それだけで、何かやり取りがある訳でもない。
それどころか、意図的に関わらないようにされている気さえする。
そう思ったのは、今朝、会社に集合をして、バスに乗り込む直前のことがあったから。
バスに乗る前、営業部で何やら楽しげに話していた。
彼らが乗り込む順番になり、私が呼び掛けに行くと、皆さんから返事はもらえたものの、ユウくんと例の営業部の彼女には目を逸らされた。
女の子の方に、そうされるのは納得がいく。
しかし、ユウくんにされた、それは少し解せない。
別に最近、最後に会って、喧嘩をしたという訳でもない筈。
だから、これは恐らくだけど。
女の子に対して、何か気をつかうような、気まずいことがあるからなのでは、と思ってしまう。