羊かぶり☆ベイベー
資料館を出ると、休憩スペースになっており、ベンチや飲食販売などがされていた。
既に、うちの社員さん達も休憩をとっていて、真っ昼間からビールで喉を潤わせている。
先輩は少し汗を滲ませていたが、にこりと笑顔で言った。
「ふぅ。ちょっと疲れちゃったわね。お手洗い行ってくる」
「はい。私、ここのベンチで待ってます。あ、良かったら、飲み物、何か買っておきます。何が良いですか?」
「ありがとう~。じゃあ、お茶が良いかな」
「わかりました」
1人になって、2人分飲み物を買う。
そして、ベンチに腰を下ろした。
自分の分のお茶を飲み、乾いた喉を潤したら、気持ちに余裕が出来てくる。
そこで染々と改めて思った。
──私、楽しんでるなぁ……!
やっぱり気の合う人と居るだけで、こんなにも私が違う。
偶然、付近に居た、普段、挨拶くらいしか交わすことのない社員さんに話し掛けられても、生き生きと返せる。
何も苦だと、思えないからだ。
まさに、ここは非日常。
先輩を待って、ぼうっとしている間ですら、新鮮だった。
その時、遠くに居る1人と目が合う。
相手はニコッと笑い、こっそりと手を振られた。
1人ぼっちの吾妻さん、だ。
無視は失礼だと思い、軽く会釈を返す。
しかし、特に寄ってくる様子もなかった。
『もし、何もすることが無くなって困ったら、俺のところにおいで』
前回のカウンセリング終了後、雑談で社員旅行の話題になった時に、そんなことを言われた。
そうか。
私から行かなきゃ駄目、ってことなのかな。
でも、今は生憎「何もすることが無い」わけじゃない。
先輩がお手洗いから戻ってくるのも、見えているし。
私は吾妻さんのことは、このまま放って置くことにした。