羊かぶり☆ベイベー



驚き、振り返る。

振り返れば、よく見知った顔で、先程も目が合っていた人だった。



「え、吾妻さん」

「どうも」

「……やっぱり、お1人ですか」

「もちろん、お一人様ですけど。何か?」

「いいえ。別に」



冗談とは言え、つい意地悪く言ってしまう。

それでも、吾妻さんの表情が楽しそうに笑ってくれているので、安心する。

その表情に癒されている自分を、今、自覚した。

私が出会った時から、冗談を言えた異性は、唯一この人だけかもしれない。

吾妻さんも笑顔のままで黙ってしまったが、まだ、もう少し一緒に居てほしい、と思ってしまった。

何か会話が欲しい。



「……もう、淋しくなっちゃったんですか」



からかうつもりで言ったのに、どうしてか声が小さくなる。

何故かしら、今、私は照れているらしい。

何を照れているんだ、私。

これでは、意地悪にならないじゃないか。

堪えられなくなって、オルゴールの上の丸々太った三毛猫をじっと見つめる。

すると、少し間を置いてから、吾妻さんが言う。



「うん。淋しくて、みさおさんの後ろ姿見たら、話し掛けたくなって」



この人は、またこんな思わせ振るようなことを言ってのける。

じんわりと、顔が熱を帯びてきた。



「そっ、そうですか……」



それを言うのすら一苦労で、全く可笑しな話だ。

自分から、もう少し話したいと思ったくせに。

まるで、打ちのめされた気分だ。

それ以上は何を言っても、声が震えそうで怖い。

そう思うと、今度は黙ってしまう。

私って、極端だな。

でも、まだもう少し、何か──。



「みさおさん、買うの? オルゴール」



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