羊かぶり☆ベイベー



惑っていた私に、吾妻さんの方から会話を続けてくれた。



「あ、いや、まだ買うかどうかは悩んでて……」



私が辿々しく答えると、吾妻さんが距離を詰めた。

私の顔の直ぐ横に、彼の顔が近付き、思わず息を止める。



「猫、好きなの?」

「え」

「さっきから、ずっと見てるから」

「え、あ、好きです。この子は特別、丸々して可愛いなって、思って。というより、ど、動物は大体、好きです」



吾妻さんはふーん、とにこやかな表情で、他のオルゴールに目をやる。

呆気なく離れられて、無駄に喋り過ぎてしまった自分が恥ずかしくなった。

この人に対して、私はいつも喋り過ぎてしまう気がする。

カウンセリングの雰囲気は、いつもまるで罠の様だし。

店長のお店でも、プライベートでだって、ペラペラさらけ出し過ぎていたのかも。

でも、いつでも何となく分かっていた。

私の気持ちを、でも、吾妻さんは私じゃないのに、私の立場になって心配してくれていた。

だから、そこに甘えて、つい話してしまうんだろう。

2人の間は、人が1人くらい入ってしまいそうな距離になる。

きっとこのまま、吾妻さんは再び単独行動を始めるんだろう、などと半分諦めて、彼の姿をじっと見ていた。

すると、不意に吾妻さんがこちらを向く。



「俺は、これが、みさおさんっぽくて、好きかもしれない」



そう言って、指差したのは淡いピンク色の羊だった。

それは静かに目を閉じて、芝生の上で立っている。



「私っぽいですか……?」

「うん。ちなみに、羊って、どんな性格か知ってる?」



唐突に逸れる話題に、私は首を横に振った。


< 142 / 252 >

この作品をシェア

pagetop