羊かぶり☆ベイベー
惑っていた私に、吾妻さんの方から会話を続けてくれた。
「あ、いや、まだ買うかどうかは悩んでて……」
私が辿々しく答えると、吾妻さんが距離を詰めた。
私の顔の直ぐ横に、彼の顔が近付き、思わず息を止める。
「猫、好きなの?」
「え」
「さっきから、ずっと見てるから」
「え、あ、好きです。この子は特別、丸々して可愛いなって、思って。というより、ど、動物は大体、好きです」
吾妻さんはふーん、とにこやかな表情で、他のオルゴールに目をやる。
呆気なく離れられて、無駄に喋り過ぎてしまった自分が恥ずかしくなった。
この人に対して、私はいつも喋り過ぎてしまう気がする。
カウンセリングの雰囲気は、いつもまるで罠の様だし。
店長のお店でも、プライベートでだって、ペラペラさらけ出し過ぎていたのかも。
でも、いつでも何となく分かっていた。
私の気持ちを、でも、吾妻さんは私じゃないのに、私の立場になって心配してくれていた。
だから、そこに甘えて、つい話してしまうんだろう。
2人の間は、人が1人くらい入ってしまいそうな距離になる。
きっとこのまま、吾妻さんは再び単独行動を始めるんだろう、などと半分諦めて、彼の姿をじっと見ていた。
すると、不意に吾妻さんがこちらを向く。
「俺は、これが、みさおさんっぽくて、好きかもしれない」
そう言って、指差したのは淡いピンク色の羊だった。
それは静かに目を閉じて、芝生の上で立っている。
「私っぽいですか……?」
「うん。ちなみに、羊って、どんな性格か知ってる?」
唐突に逸れる話題に、私は首を横に振った。