羊かぶり☆ベイベー
「ふぅ、お腹痛いです、笑い過ぎて……」
笑い疲れした私を、吾妻さんは満足げに眺めて、言った。
「あー、楽し。みさおさんも素で、楽しんでくれてる様で良かった」
そして、私の顔を覗き込む。
「表情、ガラッと変わったね。明るくなった」
「そうですか?」
「うん。やっぱり、そっちのが良いよ。うんと美人になる」
「……っ」
何かの聞き間違えだと思った。
私が、そんな訳、現実に有り得ないし。
吾妻さんがそんなことを言ってくるとは、思ってもいなかった。
いや、吾妻さんだから言えるのかもしれない。
カウンセリングは至って真面目だけど、他所ではきっと、お店に居る時のように軽い雰囲気でいるから、誰にでもさらっと、言っているんだ。
何度も思ってきたことを、また自分に言い聞かせるように、頭の中で反芻する。
「もう戻っても、大丈夫そうだね」
そう言われた瞬間、せっかく収まっていたモヤモヤが、ぶり返してきた。
ぶり返してきてしまったのだから、まだ大丈夫じゃない。
こんなの屁理屈だと、分かってはいるけれど。
「……もう少し、ここに居ちゃ、駄目ですか」
まだ、この場を離れがたくて。
駄々を捏ねる子どものような心境だ。
「吾妻さんと、まだ一緒に居たい……かも、しれないです」
「みっ、みさおさん……?」
吾妻さんのいつも調子の良い口調とは程遠く、かなり辿々しい。
それが、嬉しかった。
動揺してくれている証拠だから。
困らせているだけかもしれないけど、それでも。
本当に興味が無いのなら、冷たく返してくる筈だ。
『先輩とまだ一緒に居たくて』
『いい加減にしろよ。しつこい』
いつかのあの2人のやり取りが、また甦る。
本当にしつこく、私にとり憑いている。
私は、未だに気にしているらしい。
そして、言ったときには無意識だったが、皮肉にも彼女と似たようなことを口にしてしまっていた。
でも、真似をしたつもりはない。
ただ、自分の欲を抑えきれなかっただけ。