羊かぶり☆ベイベー
「でも、彼が、あの女の子を抱き締めた時……私の名前、呼んで……私、どうしたら良いのか、分からなく、なっちゃって」
「マジで、どういうつもりなんだろうね、そいつ」
聞き慣れない強めの口調。
少し意外で、私の言葉も一旦、止まる。
でも、怒ってくれているのだろう。
私の代わりに。
「かなり、泥酔してたので……」
「その、彼を庇おうとするのは、何?」
「え」
「好きだから?」
「す……」
言いかけて、止めた。
やっぱり、しっかり肯定するのは止めておこう。
まだ自分に嘘を吐くことになりそうだから。
吾妻さんの胸元の浴衣を、そっと掴む。
「好きになろうと、頑張ってはいます。でも……分からなくなってきました」
頬を擦り付けることの出来る距離にいると、甘えたい気持ちになってくる。
実際に擦り付けなくても、吾妻さんの匂いが香ってきて、落ち着く。
匂いまでもが、温かい。
今の掻き回されて、荒んだ心には、これだけでも十分に満たされる。
質問されて、その後、吾妻さんは一言も喋っていない。
どうしてしまったのだろう。
私から呼び掛けると、少し間を開けてから、ようやく声を発した。
「『好きになろうと頑張る』って、一生懸命なみさおさんらしいけど。前に言ってた時も、思ってた。やっぱり違和感あるんだよね、俺には」