羊かぶり☆ベイベー
「何か、怒ってま──」
「怒ってはないけど。腑に落ちない、というか。頑張ってる時点で、やっぱり今、既に好きじゃないって、自分から言ってるようなもんなんじゃないの?」
怒っていないと言いながら、口調は怒っているように聞こえる。
これは、私の優柔不断なところや、矛盾していることについてかもしれない。
まだまだ、お説教が続く覚悟をする。
ただ感情を読み取れないまま聞くのは怖いので、表情を確認しておこう。
そうしたら、少しは心構えが出来る筈だと思う。
吾妻さんの胸をそっと押し返して、顔を少し上げた。
思った以上に、その距離は近くて、鼻が当たりそうになる。
慌てて、顔ごと逸らした。
心臓がドクドク言っている。
今日は何だか、心臓に負荷をかけてばかりだ。
しかし、落ち着ける間も無く、吾妻さんの腕が私の腰を抱き寄せた。
突然のことに、悲鳴が上がる。
「や、吾妻さ……」
「みさおさん、貴女って人は……」
耳元で、低い声で囁かれて、背中がぞくっとした。
先程までの吾妻さんとは、また雰囲気が変わった気がする。
距離も、まだまだ詰めてくる。
危険を感じる、かも。
身を捩ってみても、びくともしない。
吾妻さんだと思って、油断していた。
私との関係は、意地でも踏み入れないだろうと思っていたから。
顔が熱いのと、冷や汗が止まらない。
「ちょっ、ちょっと」
「俺だって、男なんですけど。そこ、ちゃんと分かってる?」
もちろん、それは分かっている。
でも、まさか、こんなことになるとは思ってもいない。
抵抗すれば、するほど、吾妻さんは攻めてくる。