羊かぶり☆ベイベー
その体勢から、一切動こうとしないので、私も慌てふためく。
こんなところ、誰かに見られたら恥ずかしい。
これでは、まるで私が弱味を握って、吾妻さんに圧をかけている様に見えるかもしれない。
辺りを見渡して、誰も居ないことを確認する。
「本当にもう、いいですから。私、分かってますから」
私がそう言うと、吾妻さんが少しだけ顔を上げる。
「分かってます。見た目も言動も、やることも軽いですけど、本当の中身は、とても人情味に溢れた優しい方だって」
「え……?」
「あの時だって、いつまでも、はっきりしない私の代わりに、怒ってくれたんですよね?」
「いや、それは……」
「そういうことに、しておいてください」
──じゃないと、怖い……。
駄目だと散々、注意された感情が、また、どんどん沸き上がってきそうで。
ほぼ強制で、吾妻さんを納得させた。
その為、吾妻さんは無言のまま、腑に落ちない表情で居る。
そんな彼の名前を呼んだ。
いつも私の不安を拭い去ってくれる、吾妻さんへのお返しに。
「本当に、大丈夫です。私、何度も言ってますよね? 吾妻さんには、感謝してるんです」
「……うん」
「彼とのこと、ちゃんと考えて、答を出さなきゃって思えたのも。素直になって、羊みたいな私の性格を改めないと、って考えさせられたのも」
「だから、みさおさんは十分、自力で変われてるってば」
相変わらず、吾妻さんはそこを譲ろうとしない。
毎回、謙遜をする。
「もう……何回、同じことを言い合ってるんですか? 私たち」
呆れて、つい笑ってしまう。
「出来れば、人を前向きにさせてくれる、物凄いパワーを持っている吾妻さんに、もう少しだけお世話になりたいんです。駄目ですか」