羊かぶり☆ベイベー
「え。一緒にですか?」
「そりゃ、そうでしょ。そこで、せめてものお詫びに、鉄板焼きを奢らせてください。やっぱり言葉じゃ、足りないというか、本当にこれからも来てくれるのか、心許ないというか……」
自ら、奢ると誘って、不利なのは吾妻さんの方であるのに、何故か懇願してくる姿は、実に不思議だ。
でも、私の相談事の結末を、最後まで責任を持って、見届けようとしてくれているのだろう。
カウンセリングルームの外で、意図的に会うなんて本来、この関係性では有り得ないことだが。
たった今、誘われているこの瞬間は、吾妻さんの中では違うんだ。
きっと、今は「友達」として、誘われているんだ、私。
そう思うと、ほんの少しだけ気持ちが、軽くなった気がした。
「もし、無理なら無理って言ってね」
「いいえ。行きます。でも、私、鉄板焼きよりも久しぶりに、店長おまかせのカクテルが飲みたいです」
「承知しました。お嬢様の仰せのままに。今夜は、何でも奢らせていただきます」
「何ですか、それ」
冗談を楽しめる余裕が、徐々に私にも出てきた。
久しぶりに、店長の見ても楽しい、ハイセンスなカクテルが飲めると思うとワクワクする。
舞い上がった気持ちのままで、吾妻さんの半歩後ろを歩き、1階へ降りた。
廊下を進んで、出入口へと向かう。
その途中に、全面ガラスの禁煙スペースがある。
普段はあまり気にしないのだが、今日は何となく、そこへ目が行った。
──今日は、やたら人が多いな。
普段は居ても1人や2人くらいなのに、今日は珍しく狭い空間に、5人も集まっていた。
横目で少し見たくらいだった。
そのくらいだったのに、その内の1人と目が合ってしまった。
見た瞬間に、その人物の正体が分かってしまって、私という奴は、なんて運が悪いのだろう、と後悔する。
そこには、営業部が集まっていたのだ。