羊かぶり☆ベイベー
黒烏龍茶のグラスにそっと触れ、泣いてしまって熱を帯びた頬に当てる。
氷が溶けきらない飲み物の冷たさが、徐々に心地好くなっていく。
涙も、だんだん落ち着いてきた。
思えば、ここには店長も、ましてや目の前に吾妻さんも居たのに、泣いてしまった。
今更ながら、恥ずかしくなり、ふと吾妻さんを見る。
「みっともない姿、見せちゃって、すみ──」
本当は笑顔で、もう自分は大丈夫だ、ということを伝えようと思った。
思ったのだが、吾妻さんの様子の方が変だ。
「ど、どうしたんですか? 変な顔して……」
妙に真剣な面持ちで居るので、思わず、椅子の上で後退る。
「みさおさん」
「は、はい」
「俺、みさおさんと居ると、本当に楽しいんだよね」
「私も吾妻さん見てると、面白いです」
「……それは、動物園の動物を見てるつもり、なのかな?」
「確かに。それに近いかも」
「それは、ちょっと傷付く……」
「あはは、ごめんなさい」
こういうやり取りが出来る男友達は、吾妻さんしか居ない。
居心地が好くて、楽しい。
あくまで、友達だから。
──そういう、意味ですよね?
気付けば、笑っていたのは私だけだったようで、吾妻さんは既に微笑み、落ち着いていた。
「あ、ごめんなさい……」
「ううん。笑ってるところ、やっぱり好きだなぁ」
不意打ちで、ふにゃと笑った吾妻さんに、ドギマギしてしまう。
「あのさ、みさおさん。伝えたいことがあって」
「……何ですか」
「俺、やっぱり、みさおさんのこと──」
言葉の途中で、吾妻さんの顔が視界から消える。
いや、消えたのではなく、正確には隠された。
彼と私の間に、店長の腕が割り込んでいた。
料理を運んできてくれたらしい。
反対の腕にも、注文した幾つかの料理をのせている。