羊かぶり☆ベイベー



「ん……? もしかして、大事な話の途中だった、か?」

「壮。お前、わざとだな?」

「いや、本当に知らなかった。悪い」

「許さん。許してほしかったら、ちょっと、ここに座って一緒に飲め」

「桐矢が酒、一滴も飲めないだろ」

「いいから」

「無理だ。今から、予約のお客さんが来る時間だ」



店長が言うと同時に扉が開き、5人組の男女が入ってきた。

そのお客さん達に挨拶して「ほら」と、お客さんから見えない角度で、その5人組を指差す。

去っていく店長の後ろ姿を、吾妻さんは悔しそうに睨んでいた。



「あの、吾妻さん、今、何か言いかけてませんでしたか?」

「あ、いや……うん……」



吾妻さんはモゴモゴして、何かを言おうとする仕草を何度も繰り返す。

それを、しばらく繰り返した後。



「ご、めん。ちょっと、今は、まだ言えない、かも」

「え」

「ちょっと、今は駄目だ。ごめん」

「……気になるんですが」

「ごめん。今日は勘弁して」



吾妻さんが自身の両手で、顔全体を覆った。



『俺、やっぱり、みさおさんのこと──』

──そんな言い方されたら、気になる……!

内心、荒ぶる私を静かに宥めて、平静を装う。



「……わかりました。無理には、聞き出しません」

「そうしてください。お願いします」



そういう吾妻さんの顔が、紅くなって、飲み物を一気飲みしている。

紅くなって、言えなくなってしまうような話。

ますます気になる。

しかし、例え悶々としても、期待はしちゃ駄目だ。

カウンセラーとクライアントが、それ以上の関係の意味を持ってはいけない。

これは決して、感情だけの問題ではなくて、職業上での決まり。

それだけは、忘れちゃならない。

気を取り直して、届いた料理に箸を付けていく。

どれもこれも美味しくて、頬が緩む。



「吾妻さん。この卵、ふわっふわで美味しいですよ」



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