羊かぶり☆ベイベー
ユウくんという、イマイチはっきりしなかった元彼のことも、この会話も笑って、無かったことにしてしまおうと思ったのに。
それなのに、吾妻さんは意地の悪いことを言う。
「何、言ってるんですか。彼だって、私とは関わりたくない、って思ってますよ。多分」
「いや、まだだよ。あれだけ嫉妬心丸出しにして、中途半端に逃げ出して。まだ何か言ってきそうな気がするな」
「なんで、そんな」
「同じ男として、自分が彼の立場なら、そんな歯切れの悪い終わり方はしない」
吾妻さんの、雰囲気の緩い姿の裏側、真剣に考えてくれる、鋭い頼もしい姿。
凛々しいところも、初めは驚いたり、笑ったりしてしまっていたが、今では見惚れてしまう。
ぼうっと見る私に、吾妻さんの表情が変わった。
また頬を紅くして、今度はおどついている。
せっかく凛々しく、格好良いと内心だけで、褒めてあげていたというのに。
「ちょっと、あんまり見つめないでよ? そんなに俺、男前? 惚れた?」
「本当に、そっ、そういう冗談止めてください」
「……あーあ、俺にしとけば良いのに」
思わず、呼吸の仕方を忘れた。
冗談に決まっているのに、動揺してしまう。
これは、いつもの冗談?
それにしては、いつもと台詞が違う気がする。
私が深く考え過ぎている?
どんな答であれ、せっかく得た友人という、吾妻さんと近く親しく居られるポジションを守らなければ。
今まで、必死に堪えてきたのだから、今、堪え切れない訳は無い。
関係を崩すことのないよう、いつも冗談を言い合うテンションを、意地でも思い出す。
「う、自惚れないでくださいね」
それに対し、吾妻さんは「手厳しいなぁ」と笑った。