羊かぶり☆ベイベー
とりあえず、黙る。
彼女からは話し掛けてこられたが、私としては、何も話すことなんて無い。
だって、彼女の言う「先輩」こと、ユウくんとは既に赤の他人なのだから。
それに、彼女にはするべき仕事だってある筈なのに。
私なんかと話している場合ではない。
私の前から動こうとしない彼女には、そもそも彼と関係性を作りたいであれば、もっと他にするべきことがある筈だ。
「一丁前に、フッたらしいですね」
威圧的に言ってくる彼女は、怖いというよりも、好きになれない。
私が弱いと分かり切っているという、彼女の先入観からくるものなのだろう。
内心は確かに、また怖じ気づいていたけれど。
私だって、誰かの言いなりになるだけのお人形なんかじゃない。
「フッたなんて……話し合っただけです。それに、あなただって、旅行の日、私に言ったじゃないですか『告白された時点で、断るべきだった』って。むしろ、これが、あなたが望んでいた形なんでしょう?」
「そんなこと言いましたっけ。覚えてないので、よく分からないですけど。言い訳ですか? 」
「私は、彼とはもう関係ありませんので、これ以上は……」
「無理です。私が納得していないので」
「私にどうしてほしいんですか……?」
問えば、彼女が詰まる。
彼女が何を言わんとしているのかが、よく伝わってこない。
だって、私が別れた今、彼はフリーだから、むしろ彼女にとっての好機だ。
今まで通り、彼を攻めるべきだ。
「話す相手、間違えてますよ」
真っ直ぐ彼女を見据えて、ちゃんと言った。
すると、彼女の顔はみるみる内に赤くなる。
「偉そうに……」
かろうじて聞こえる声量で呟く。
そして、次の瞬間、手を振り上げた。
私の身体も衝撃に備えて、反射的に目を瞑る。