羊かぶり☆ベイベー
「もう良いから。約束のお客さんあるんだろ。早く行け」
「でも──」
「この話題は、二度と出すな」
強めの口調で、はっきりと言い切った声が響く。
私は時々、こうして驚かされるんだ。
彼には、こんな一面もあったのだ、と。
私と一対一のときには、なかなか見せてくれなかった一面。
ユウくんにピシャリと言われた女の子は、相変わらず腑に落ちないという風に、そこに留まっていた。
「早く行かないと、商談に遅れるぞ」
更に急かされた彼女は、顔を複雑に歪めると、ユウくんに向かって悪態を吐く。
そして、玄関の自動ドアから飛び出す様に、立ち去っていった。
私は彼女の出ていった後を、ただ見ていただけだった。
呆けていると、未だに残っている人物が数歩、近付く音がする。
「うちの奴が迷惑かけて、本当に申し訳無かった」
初めてかもしれない。
こうやって謝罪をされたのは。
ユウくんが俯いている。
私はどんな反応をしたら良いか、戸惑う。
おどついている内に、彼は既に顔を上げていた。
彼の真っ直ぐな視線が、私を捉えている。
以前の怖じ気づいてしまった時のような鋭い視線ではなく、強い意志を持った瞳。
それでも、私には伝わり、感じる何かしらの力に圧されてしまう。
圧されつつも、その強い瞳から、目が離せなくなっていると、彼の口がゆっくりと動き出す。
「よかったら」
「……え、はい」
「5分だけ、もらえないかな」
「今から?」
「うん、今から。やっぱり駄目かな」
吾妻さんが言ったように、私にとっては終わりでも、彼にとっては何かが、まだ有るのだろうか。
でも、5分で済ませられる話と言われたら。
もし、別れることを認めない、なんてことならば、時間制限ありで話せることではないと思うから。
それに女の子に散々、その話題は2度となんたらかんたらと言っていた訳だし。
最後の最後に、彼を信じてみる。
「分かった。5分だけなら」