羊かぶり☆ベイベー
私が頷き、答えると場所を移そうと言われた。
そして、連れてこられたのは、備品等を保管している倉庫。
ここへは、いつかにも2人で話す為に、連れ込まれた記憶が残っていた。
ここで、あの時の私は感情のこもらない「好き」を、彼に向けていた。
その場を凌ぐ為だけの「好き」を。
忘れかけていた記憶が、ふと甦り、少し居たたまれなくなってくる。
薄暗い空間で、記憶を1人辿っていると、彼が弱々しく声を発した。
「あ、みさ……」
言いかけて、彼が首を横に振る。
唇を少し噛んでいる。
「──この前、話して、あれからずっと考えてて」
「うん」
「俺、馬鹿だから……い、伊勢さんの気持ち、考えれてなくて」
「うん」
いつもの無気力のような人とは、想像がつかない程、緊張しているのが伝わってくる。
この倉庫へ移動してきてから、全く目線が合わなくなった。
「本当のことを言ったら、傷付けるんじゃないかって、考え巡らせてたら、言えなくなって。でも、隠してしまったことで、余計に不安にさせちゃったんだよね」
どうやら、ようやく分かってくれたようだ。
しかし、これ以上の贅沢は言わない。
もう分かってくれただけで、救われた気持ちだ。
それだけの話だと、私の中で勝手に完結してしまいそうになったが、彼の話は終わっていないらしかった。
「あの時、質問されたこと、今から全部、打ち明ける」
「えっ」
「聞いてくれる、かな」
聞くも聞かないも、私が待ち侘びていた答。
これできっと分かる。
彼にとって、私が一体、どんな存在であるのかが。