羊かぶり☆ベイベー
「俺が声を掛けた理由は……営業部の打ち上げの時に、成績最下位の奴は『気に入っている人』に告白するっていう話に、急になって」
ほら、やっぱり。
からかい、罰ゲーム。
付き合い始めて、違和感を感じ始めた頃、予想したことは的中していた。
覚束無い口調で、彼は続ける。
「でも、俺、その時、そんな人、別に居なかったし。それで、身近に居る年齢の近い人って思ったら、一番に浮かんだのが──」
口調と同様に、覚束無い、あまりにも辿々しい瞳を向けてくる。
「そんな……。後輩の子が居るでしょ?」
「え」
「全く関わりの無かった、私なんかより。後輩の女の子が、ずっと身近でしょう?」
「いや、あいつは……。あくまで、仕事仲間だから。そうとしか、思えない」
「そう、なんだ。でも、同じくらいの年代の人なら、他にも──」
「精算関係で経理部に行く度に、気になってはいたから。綺麗な人だな、って」
今の状況では、お世辞でさえも、すんなりと受け入れられない。
でも、大体のことが分かってきた。
中でも私が今、思うのは、あの後輩の女の子のことだった。
『あなたは彼に告白された時点で、断るべきだった』
『私の方が先輩を癒せる自信ありますから』
『彼女さん、先輩に気が無いのかも!』
今までの言動と、表情が次々に思い出される。
どの時の表情も、鋭かった。
圧を滲ませていた、あの空気は全て、本物の気持ちだったからだ、きっと。
彼女は間違いなく、目の前に居る、この彼が好きなんだ。
何となくで始まった私とは違って。
だから、彼の「気になっている人」に選ばれず、傷付いても尚、振り向かせようと必死だったんだ。
それを思うと、中途半端な私は、彼女にも悪いことをしてしまった、と今更ながら思う。
そこまで思い至ると、やっぱりお世辞は受け取れない。
「冗談、止めて……」