羊かぶり☆ベイベー



「綺麗だと思ったのも、気になってたのも、本当だよ。でも、あの時、好きとかではなかった」



分かりきっていた答である筈なのに、妙に胸がチクリと傷む。



「大丈夫。分かってたから」



何故かしら傷付いた、この顔を見られたくなくて、目を伏せた。

私は格好を付けて居たいだけなのかもしれない。

私は、そこまで拘らないから、なんて言いたいだけなのかもしれない。

すると、彼が「でも」と焦った風な口調で言った。



「今は良いな、って思ってるのも、本当」

「そんなの──」

「それも、本当だったから。騙すみたいな真似した俺にまで、物凄く気遣おうとしてくれる、中身まで綺麗な人だ、『みさおちゃん』って」



思わず、言葉が出なくなる。

先程から続いている、お世辞だと思いたかったけれど、流せなかった。

彼が、あまりにも辛そうにするから。



「あ、あの……」

「大丈夫。もう、俺のこと、無理になってるよね。それは、あの時、話してる表情見て、勘づいては居た」

「違うの」

「え」

「ありがとう」



今までを思い返したときに、悪いことばかりではなかったと、確かに思ったことがある。

一時でも私を選んでくれたこと。

悪く言われた私を庇ってくれたこと。

あまり表情も見えてこない、口数も少なかった彼が、今、真実を辿々しく伝えてくれたことも。

やっぱり彼を悪い人のままで、終わらせたくない。

すると、彼は頭を掻いた。



「……こちらこそ。付き合ってくれて、ありがとう」



はっきりとした口調で言った。

これで私たち、しっかりとキリを付けることが出来たんだ。

それなのに、心に大きな隙間が出来た様に、少し寂しくなるから、不思議だ。



「聞いてくれて、ありがとう。俺、先に出るから」

「うん」



私が頷くと、彼はゆっくりと歩き出し、扉の音を立てないように、そっと閉めて出ていった。

私の考え過ぎかもしれないが、驚かせないようにしてくれた、彼なりの気遣いなのかもしれない。

案外、そういうことなのかもしれない。



< 234 / 252 >

この作品をシェア

pagetop