羊かぶり☆ベイベー
「綺麗だと思ったのも、気になってたのも、本当だよ。でも、あの時、好きとかではなかった」
分かりきっていた答である筈なのに、妙に胸がチクリと傷む。
「大丈夫。分かってたから」
何故かしら傷付いた、この顔を見られたくなくて、目を伏せた。
私は格好を付けて居たいだけなのかもしれない。
私は、そこまで拘らないから、なんて言いたいだけなのかもしれない。
すると、彼が「でも」と焦った風な口調で言った。
「今は良いな、って思ってるのも、本当」
「そんなの──」
「それも、本当だったから。騙すみたいな真似した俺にまで、物凄く気遣おうとしてくれる、中身まで綺麗な人だ、『みさおちゃん』って」
思わず、言葉が出なくなる。
先程から続いている、お世辞だと思いたかったけれど、流せなかった。
彼が、あまりにも辛そうにするから。
「あ、あの……」
「大丈夫。もう、俺のこと、無理になってるよね。それは、あの時、話してる表情見て、勘づいては居た」
「違うの」
「え」
「ありがとう」
今までを思い返したときに、悪いことばかりではなかったと、確かに思ったことがある。
一時でも私を選んでくれたこと。
悪く言われた私を庇ってくれたこと。
あまり表情も見えてこない、口数も少なかった彼が、今、真実を辿々しく伝えてくれたことも。
やっぱり彼を悪い人のままで、終わらせたくない。
すると、彼は頭を掻いた。
「……こちらこそ。付き合ってくれて、ありがとう」
はっきりとした口調で言った。
これで私たち、しっかりとキリを付けることが出来たんだ。
それなのに、心に大きな隙間が出来た様に、少し寂しくなるから、不思議だ。
「聞いてくれて、ありがとう。俺、先に出るから」
「うん」
私が頷くと、彼はゆっくりと歩き出し、扉の音を立てないように、そっと閉めて出ていった。
私の考え過ぎかもしれないが、驚かせないようにしてくれた、彼なりの気遣いなのかもしれない。
案外、そういうことなのかもしれない。