羊かぶり☆ベイベー
「う、うるさいですね!」
もう一度「カミカゼ」で、羞恥による火照りを鎮める。
ライムの爽やかさとキュラソーの甘味が、駆け抜けて、確かに特攻隊を思わせる。
特攻隊なんて言うからには、カクテル言葉も物騒なんだろうか。
「店長。カクテル言葉、まだ聞けてませんでした。教えてもらえませんか」
「失礼しました。では、少しお耳を拝借しても?」
戸惑いながらも、店長の方へ少し寄る。
耳打ちされた言葉。
思わず、吾妻さんを見る。
私にとっては、彼のことだとしか思えなかった。
「え、何」
すると、店長まで吾妻さんを見て、微笑んでいる。
「壮までなんだ、その顔! なんか腹立つな。みさおさんに何、言ったんだよ。しかも、距離、近過ぎるし!」
早口の吾妻さんを、あまり相手にしていない店長は、他のお客さんに呼ばれると、気にせずオーダーの準備を整えた。
「桐矢。頑張れよ」
そして、吾妻さんにそう一言残すと、お客さんのテーブルへゆったりと歩いていく。
「いや! 分かんない、分かんない! みさおさん、カクテル言葉、何だったの」
「それは……秘密です」
「2人して、隠し事は良くない。そういうの良くないよー」
場を賑やかす、吾妻さんの反応に、ついつい笑ってしまった。
この人と居ると、いつでも時間を忘れてしまうんだ。