羊かぶり☆ベイベー
アスファルトに白線が引かれた、至って普通の駐車スペースに到着する。
これからしようと考えていることに、怖じ気付いているからか、いつもよりも私の気持ちが不安定になっているようだ。
白線、真っ直ぐに上手く駐車することが出来ない。
今夜はここに、車は置いていくつもりだから、しっかり真っ直ぐに停めないと。
私の可笑しな色をした愛車が、他の車に当てられでもしたら、大変だから。
何度か切り返して、ようやく納得した私は車から降りる。
そして、駐車場から10分程の道を歩いた。
何てことはない、舗装された道路をどんどん行く。
目的の場所まで来たら、小ぢんまりとした建物の入口の扉を開いた。
「いらっしゃいませ。こんばんは。カウンター席へどうぞ」
いまいち、やる気の無さげな男性が席へ通してくれる。
彼が、この小さな飲み屋さんで働く、たった一人の店長だ。
やはり今日もお客さんは、誰も居ない。
この緩く、着飾らない雰囲気が気に入っている。
無論、私の行き付けだ。
でも、一人で来たことは、今までに一度もない。
今の私の姿を他に晒すくらいなら、こんな夜は、いっそのこと自棄になって、一人酒してしまった方がいい。
これを、一度はしてみたかった。
「自棄」は余計だけど、一人で思い切り呑んでみたかった。
ゆっくりと椅子に腰をかける。