羊かぶり☆ベイベー
それからの私は、何事も無かったかのように、デスクのパソコンに向かっていた。
しかし、思った通り、いまいち集中が出来ない。
どうしても先程の出来事が、頭を過る。
ユウくんとたった二人の密室の空間で「好き」と言った。
あの場を平穏に収めたいがために。
後ろめたい気持ちが残る。
こんな気持ちのままで、今日の夕方にでもユウくんとまた鉢合わせたら、どうしたらいいのだろう。
一体、どんな顔で向き合ったらいいのだろう。
溜め息を溢すと、手も止まった。
「伊勢さん」
そのとき、背後からタイミングを計ってか、声がかかる。
「はいっ」
「来客があるので、応接室へお茶をお願いします」
「わかりました」
重い腰を渋々上げた。
事務作業の合間に、急須に触れ、お湯を注ぐことも、これが意外に気分転換となる。
画面を見て、キーボードを叩くだけのことに、どうしてこれ程までにも気疲れをしているのか。
自分で自分が、不思議でならなかった。