羊かぶり☆ベイベー
そうして、昨日の今日で私はまた一人で、ここへやって来てしまった。
小ぢんまりした建物の、扉の前に立つ。
例の飲み屋だ。
今回の目的は、決して自棄酒でもなければ、慰めてほしくてやって来たわけでもない。
何となく、あの人に会いたくなってしまったからだ。
初対面でもスラスラ話せてしまった、あの人。
彼氏がいるのに、こんなことはいけない。
分かっているのに。
ここに来れば、あの人と再び、いや、三度(みたび)会えるかもしれない。
ユウくんのお誘いを断ってまで、そう思ってしまった。
扉の前に来てまで、まだ悶々と悩む。
「私、本当にいけないこと考えてる……」
お店の壁に寄りかかり、顔を覆って、悩む。
中には入らず、このまま引き返そうとも思った。
そう思ったのだが、ふと以前に口にした店長が作ってくれた、お酒の味を思い出す。
「ちょっと……ちょっとだけなら、別にいいよね」
一人言を呟きながら、店の中に入ることを決心する。
目的は、美味しいお酒を飲むことに、私の中で変更された。