羊かぶり☆ベイベー



来た道をそのまま戻って、また自分のオフィスに戻ってきていた。

周りを見渡すと、もう誰も残っていなかった。

丁度、良かった。

息は切れているし、心臓が早い。

誰の目も気にせずに、呼吸が出来る。

しかし、まだ怖い。

あの場所を離れたはずなのに、まだ恐怖が私を支配している。

彼女と目が合った、それを思い出して、まだ見られている気さえしてくる。

ああ、嫌だ。

それに、まただ。



「また……逃げ出しちゃった……」



私の馬鹿。

私がユウくんの彼女なんだから、あそこでテレビドラマみたいに「ちょっと! 何してるの!」って飛び出して行っても良かった。

それでも、出ていけなかったのは、きっと私よりもあの子の方が、自信があったから。

今まで私は、ユウくんとはタイプも違うから、分かり合えないなんて決めつけていた。

だけど、彼はそんな捉え方、一つもしていなかった。

私だけだ、そんなこと考えていたのは。
< 72 / 252 >

この作品をシェア

pagetop